『Stargazy senpie』
「おはよう流子くん!これを見てくれ!!」
部室に入るやいなや先輩が満面の笑みでなにか叫んでいる。
冷房がついていても暑苦しいなこの部屋は。私は熱源を無視して自分の机に向かう。
「流子くん!」
「おはようございます」
目を合わせずに一度机の横に掛けたカバンを机の上に置き直して、『ヘンたて』を取り出す。
トマソンに執着する変な先輩が出てくるライトなミステリーだ。謎のメカに執着する変な先輩に辟易する私に友人が貸してくれた本。ありがとうマイフレンド。普通に面白くて全然参考にならないやこれ。
「流子くん?」
はぁ……。ため息をついて、本をしま…うことはせずに指だけ挟んで先輩の方を向く
「なんですか」
「よく聞いてくれたね!これを見てくれ!」
そういって先輩は手に持っていた機械を掲げる。
おでこに向けるタイプの温度計みたいな機械だ。取っ手とモニターがある。
「……なんですかそれ」
「よく聞いてくれたね!これはね、ピノの箱に星型のピノが入っているかを調べるスキャナーだよ!!!」
……………………は?
「……………………h……なんですかそれ……」
「すごいだろう!?あの幸せな気持ちを百発百中100%感じることができる夢のような技術だよ!!」
「言ってて悲しくならないんですか?」
「どうしてだい!?これまでで一番幸せを追求した結晶ができたと思っているよ!!」
「前作ってた机の上で浮くミニ気球の方がよっぽどハッピーでしたよ」
「あんななんの役にも立たないのが!?」
「それの方が100倍役に立ちません」
「言うじゃないか。これで一緒に幸せを掴みに行かないかと誘おうとしていたのに」
「行くわけないじゃないですかそんな虚しいの。そもそもですね、ピノは冬の食べ物ですよ。今は夏です。ピノを夏に、しかも星をサーチしてまで手に入れようと思う人と一緒にピノを食べたくないですし、一緒に歩きたくありません」
先輩は口を半分開けたまま動かない。ちょっと呆然としているみたいだ。言い過ぎたかな……。
「んー…いや、よそう。君が過去の恋愛で相手にどんな仕打ちを受けたは知らないが、辛かったね。」
「は?」
やべ。は?とか言っちゃった。
「相容れない部分があるのは仕方ないことさ。切り替えたほうがいいよ」
よかった、的はずれなこと言ってる。
もういいや。ヘンたて読もう。出かけるなら静かになるだろう。
……あれ?どこまで読んでたんだっけ……。
三題噺
「夏」「気球」「過去」